クックパッドのIR戦略

   


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機械に弱い女性達にインターネットを使わせるWebサービスがあります。それが日本最大の料理サイト、クックパッドです。

多くの女性ユーザーが登録し、自らのレシピを公開する、掲載されたレシピを使って料理する、作った結果を写真付きでレポートする、面倒くさがりの女性達がこんなことをしています。その数、なんと600万人!

インターネット黎明期から存在しているサービスですので、当然私は知っていましたが、ここまで認知されているとは思っていませんでした。実際、同級生の女性がmixiでクックパッドいいよね、って普通に会話に使っているのを見ていたにも関わらず、その凄さがこれほどまでとは思っていませんでした。これは多くの男性が陥る見落としです。黎明期にあっては、他にもボブとアンジーとか味の素や大阪ガスが提供しているレシピサイトと同系列で並んでいたと記憶しています。つまり別に突出していたわけではなかったという認識でした。実際には経営陣があえて目立たないようにしていたと知り、びっくりしました。

そのクックパッドが7月に上場すると知ったのはつい最近のことです。私はそのニュースを聞いて、あーそう言えば先月発売されたクックパッドの本があったなぁ、偶然にしてもなかなかタイミングがいいなぁ、相場も1万円復活したばかりだし、IPOの呼び水になってくれればいいなぁ、なんて呑気に眺めていました。せっかくだからそのクックパッドの本を読もうかと思って読み出して初めて、私はこれは偶然なんかじゃない、周到に計算されたIR戦略の一環だとようやく気づいたのです。そう、そんな都合の良い偶然なんてあるわけないんです。あえてあの時期に本を出して上場の発表をしたわけです。相場が1万円超えたのは、これは偶然でしょう。しかし、この偶然を引き寄せられるだけの運がクックパッドにはあるということでしょうね。

600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス (角川SSC新書)
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書評(kazunobook.com):600万人の女性に支持されるクックパッドというビジネス

そう、この書籍発売は、周到なIR戦略です。通常、IPO時のIRにおいては、目論見書に記載されていること以外は話してはいけないことになっています。そのため、歯に何か詰まったようなIRプレゼンになることが多いのです。本当はもっと深いところまで説明したい、将来像についても語りたいと発行会社が思っても、それはフェアディスクロージャーに反するという理由で語らせてくれないのです。特に公開直前のBB(ブックビルディング)価格を左右するワン・オン・ワン・ミーティングにおいては、1日の4社も5社もアナリストのいる機関投資家を訪問して、1時間ちょっとで打ち切られ、次の会社に移動というハードスケジュールのため、短い時間で多くを説明するのは困難であって、発行会社もアナリストも不満が残ることが通例です。

そこで、この本が活躍します。これは会社を取材したライター著の書籍であり、会社が正式発表した資料ではありません。しかし、その内容は、会社創業の経緯から創業者の思い、高い技術力に裏付けされたサービス基盤、愚直なまでにユーザー目線を貫き通す誠実な姿勢などなど、会社が宣伝したいことが満載でした。これを読んでから目論見書を読むと、深い理解ができます。その前にクックパッドのファンになってしまうでしょうね。

この本、アナリストも個人投資家もクックパッドのIPOに興味がある人は参考資料として必ず買うでしょう。手を出しやすい新書です。そして読んでみて、クックパッドの文化やビジネスに共感を覚えるはずです。そういう内容になっています。つまり投資家層にファンを作ることが出来るわけです。女性ユーザーと投資家とはあまりかぶらないでしょうが、この本があることでクックパッドを使ったことのない男性投資家にもその魅力を余すことなく伝えることができます。著者や出版社も投資家という一定数の販売が見込めるのでローリスクです。良いことづくめです。ただし、リスクは正式発表情報ではないことによる虚偽記載の有無でしょう。あったとしても、悪意ではなく善意の誤謬だと思いたいですが、こればかりはわかりません。仮に、明らかなミスリードを招く可能性のある記述があった場合には、責任はないとはいえ会社側から訂正のリリースをすることは必要でしょうね。

ともかく、この書籍発売というオプションは、今後のIPOの試金石になると思います。全ての会社で同じ事はできないでしょうが、参考にできる要素は詰まっています。具体的なサービスのみならず経営姿勢やミッションなどを訴えることも有りでしょう。例えばダスキンの掃除やリッツカールトンのミッションなどなど。

クックパッドの目論見書から見た限りでは、私にはBB価格がちょっと高すぎ(PER倍率で50倍くらい)のように思えましたが、この本を読んで、真面目な良い会社だなとか、ネット系だから爆発的な成長もあり得るなあとか、プラスの要素を感じて、良い価格かも、なんてちょっと思ってしまいました。完璧に戦略にやられてますねw。

とにもかくにも、久しぶりの期待できるIPO銘柄ですので、注目してみたいと思います。

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