経営者判断の原則

   

真面目なエントリです。

商事法務No.1913 11/5号に下記の論文が掲載されています。

・アパマンショップ株主代表訴訟最高裁判決の意義/落合誠一(中央大学)

読んで頷くことしかりだったので、要点だけ簡単にまとめておきます。

【本件の事実関係】
事件の事実関係を簡潔に言うとこういうことです。
アパマンショップホールディングス(A社)が、66.7%所有の子会社(M社)を、事業戦略的な狙いで完全子会社のL社と合併させるに当たり、M社の株主から保有株を買い付けた件について、これを拒否した被告株主から、取締役としての善管注意義務違反として代表訴訟を提起した、というものです。最高裁では取締役らに善管注意義務違反は無いという判決が下りました。

【経営判断原則の適用】
経営判断原則とは、経営者には経営決定について裁量が認められるが、判断の前提となった事実の調査・検討に特に不注意な点が無く、当該業界の通常の経営者の経営上の判断として、特に不合理・不適切がなかった場合に、その裁量の逸脱がないとされ、したがって、善管注意義務はないとするものです。

本件は、まさに、ここに争点が絞られた事案です。

過去にぶっつぶれた金融機関の経営者に対して、貸付と回収が不適切だったという事実に基づいて、善管注意義務に違反するとされた事例がありますが、これは上記の「通常の経営者の経営上の判断として、特に不合理・不適切でない」判断ではなかったという典型です。

【経営判断へのプラスの評価】
本件においては、経営判断原則を適用するに当たって、次の2つの点をプラスに評価しています。
1.経営会議の開催
A社の職務権限上では当該株式の買取は社長の専権事項であるが、社長の意向により経営会議が開催され検討がなされています。このより慎重な検討をしたという事実について、善管注意義務の判断においてプラス評価されています。
2.弁護士意見聴取
法律問題について専門家である弁護士の意見を聴取し、その意見を尊重して買取価格を決定しています。この点も適切であるということで、善管注意義務の判断においてプラス評価されています。なお、本件で意見を聴取された弁護士は、必要性が経営上あるかどうかの見合いによって買取価格は決まるべきとして、経営者の判断すべきこととして自己の判断を示すことを避けているのですが、ビジネスの常識が必要な判断事項は経営者に委ねるのが適切であり、ビジネス・ロイヤーとして真に正しい判断であったと落合先生は述べています。私もそう思います。

【リスクテイク】
会社に損害が発生する可能性が大きいにも関わらず、経営者がそのような大きなリスクがある経営決定をすることは、会社に新たな冨をもたらすためには不可欠であり、したがって、裁判所がそれを否定することはできない、と落合先生は書いています。ビジネスの成功のためには、ハイリスク・ハイリターンの経営決定も必要だということです。そして、少なくともビジネスに関しては素人である裁判所にその意思決定が間違いだったと言う事はできないと。
まあ、それはそうかなと思いますが、そうするとほとんど全ての経営者の意思決定が善管注意義務違反にはならないということになるので悩ましいところだと思います。

【対応方法】
今後事業会社が留意すべきこととしては、真に会社の最善の利益のために行った意思決定であったということを、後からどれだけきちんと説明できるかがキーだと感じます。前述した、意思決定プロセスや外部専門家の意見聴取など、慎重に適切に意思決定していく姿勢を常日頃から継続しておくことが重要です。そして全て記録に残しておくことですね。多くの経営者が萎縮することなくビジネスに真摯に向き合っていけるように、バックオフィスとしてこういう点に気をつけて運営していくべき、と言えると思います。

 - Audit ,